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第12回 海洋環境の保全

更新日:202203301700


第12回 海洋環境の保全について

国連環境計画(UNEP)が主催する第5回国連環境総会の再開会合が2022年2月28日から3月2日にかけて、ケニア・ナイロビで開催され、海洋を始めとするプラスチック汚染対策に関する決議を含む計14本の決議と、会合テーマに沿った「持続可能な開発目標の達成に向けた自然のための行動強化」の閣僚宣言が採択されました。
プラスチック汚染対策に関する決議では、世界中のプラスチック汚染を終わらせるため、プラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際約束策定のための政府間交渉委員会(INC:Intergovernmental Negotiating Committee)の設立が決定されました。INCでは、国際約束の義務的事項、対策、自主的アプローチなどについて検討し、2024年末までに作業の完了を目指すことが決議されました。
国連環境計画によると、プラスチック生産量は年間で約4億トンあり、2040年までに2倍に増える見込みであり、海に流出する量は推定で年1,000万トンを超え、2040年に3倍に増える見通しということです。2050年にはプラスチックごみが世界中の魚の重量を超えてしまうとの試算(エレンマッカーサー財団)もあります。
プラスチックによる海洋汚染を減らす対策が急務となっていましたが、海洋流出を規制する国際的な仕組みがありませんでした。今回の合意で、国連に加盟する193カ国・地域が協調してプラスチックによる海洋汚染を減らす方向性が明確になりました。
我が国では、プラスチック使用製品の設計から廃棄物処理に至るライフサイクル全般で取り組みを促す「プラスチック資源循環促進法」が2022年4月から施行されます。同法の内容については、第8回 プラスチック資源循環促進法と循環型社会形成の推進を参照下さい。
第12回は、海洋環境の保全をテーマとして、海洋汚染のあらまし、国連海洋法条約による取組、及び海洋汚染の防止のための個別条約による規制について概説のうえ、海洋プラスチックごみ問題に焦点を当て、プラスチックごみによる影響、プラスチック問題への取り組み、海洋プラスチックごみに関する国際的取組などについて解説します。

1 海洋汚染のあらまし

近年注目されている海洋汚染は、廃プラスチック類などのごみが海洋や海浜に蓄積、散乱することにより、海洋生物への被害や人の健康に影響を及ぼす汚染です。また、以前からの海洋汚染問題として汚染された都市排水が海洋に流れ込むことで沿岸海域が富栄養化することに起因する汚染、重金属や化学物質などの有害廃棄物が海洋生物の体内に蓄積され生態系のみならず人の健康にも影響を与えるという汚染、などがあげられます。

2 国連海洋法条約による取組

海洋汚染の防止を効果的に進めるためには国際的な協力が不可欠です。このため、国連の専門機関などの国際機関を中心に、国際的な取組が続けられています。
今日、海洋環境保全に関し、最も包括的な規定を置いているのは、「海洋法に関する国際連合条約(United Nations Convention on the Low of the Sea ; UNCLOS)」(通称「国連海洋法条約」)です。「海洋法条約」は、海洋に関する法的な秩序の形成を目的とした条約で、10年間にわたる交渉を経て1982年4月に採択され、1994年11月に発効しました。海洋に関する全ての問題を一つの条約にまとめることにより、世界の新しい海洋秩序の体系化に大きく貢献するものと評価されています。日本は遅れて1996年に批准しています。

国連海洋法条約の採択、発効を巡る主な出来事
  数百年の歴史の中から慣習法としての海洋法規則が確立、その後も変容を続ける
1958年2~4月 第1次国連海洋法会議で、慣習法規則などを法典化したジュネーブ海洋法4条約(領海条約、公海条約、大陸棚条約、生物資源保存条約)を採択 
1977年7月 日本が「領海法」(領海を12カイリに) 、「漁業水域暫定措置法」(200カイリ漁業水域設定)を施行
1982年4月 第3次国連海洋法会議(ジャマイカ)で、深海底活動規制、海洋環境保護・保全、紛争解決手続などの新たな規則を定めた「国連海洋法条約」を採択
1983年2月 日本が国連海洋法条約に署名
1994年11月 国連海洋法条約発効
1996年6月 日本が国連海洋法条約を批准
1996年7月 日本が「EEZ(排他的経済水域)及び大陸棚法」「改正領海法」を施行

国連海洋法条約の主要な内容

  1. 領海の幅は12海里(1海里は緯度約1分で、1,852メートル)以内とする。
  2. 沿岸国は200海里までの排他的経済水域を設定することができ、その中にいる魚などの生物資源、鉱物などの非生物資源の探査と開発について、沿岸国の権利が認められる。
  3. 海洋環境の保護について国家の権利と義務を規定し、沿岸国の管轄権を強化する。
  4. 平和的目的の海洋の科学調査について、国際協力を進める。
    また、本条約に基づき、国際海洋法裁判所が1996年に設置されている。

海洋法条約は、海の憲法とも呼ばれており前文、本文全17部320条、9つの附属書からなる大法典ですが、海洋環境の保全については、「海洋生物資源の保存並びに海洋環境の研究、保護及び保全を促進するような海洋の法的秩序を確立することが望ましい」(前文)として、「海洋の環境の保護と保全」と題する第12部に11節46か条にわたる規定を設けています。同条約は、海洋環境保全に関し最も包括的な規定を置き、海洋環境の保全に関する世界的法秩序の基本的枠組みを設定したと言えます。
同条約では、既存の条約の内容等を考慮し、海洋を汚染する多様な汚染源を「陸上にある発生源からの汚染」、「船舶からの汚染」、「海洋投棄による汚染」、「国の管轄権の下で行う海底における活動からの汚染」、「深海底における活動からの汚染」、及び「大気からの又は大気を通ずる汚染」の6種類に分類し、それぞれについて、海洋汚染の防止・規制するための国際規則と国内の法令制定義務を締約国に課すとともに、それらを執行する国の管轄権について、初めて総合的な規定を整備しています。
海洋法条約は、「排他的経済水域(EEZ)」という公海でも領海でもない水域を設定し、沿岸国にその中での資源開発などを認めるかわりに、資源の管理と海洋汚染防止の義務を負わせている点に特徴があります。
海洋に関する国・地域間の紛争が起こり、当事国間の交渉などによる平和的解決ができない場合には、当事国の要請によって国際海洋法裁判所,国際司法裁判所,仲裁裁判所,特別仲裁裁判所のいずれかに事件が付託されます。もう一方の当事国は、国連海洋法条約の締約国である限り、境界画定に関する紛争など一部を除き、義務的手続として裁判の管轄権を受け入れなければならないこととされています。
各種海域の概念図

領海
 

3 海洋汚染の防止のための個別条約による規制

  1. 船舶からの海洋汚染の防止
    国際社会がはじめて取り組んだ海洋汚染問題は、「船舶からの海洋汚染」の問題でした。タンカーをはじめとする船舶から排出される油を含んだバラスト水やタンククリーニング水は、海面を覆う油膜や廃油ボールとなって海洋を汚染しました。
    このため、海洋汚染を規制するための条約は、まず、船舶からの油の排出の規制に関する条約が作られました。1954年に、船舶の運航に伴って生ずる油の排出を規制するため「1954年の油による海水の汚濁の防止のための国際条約」(海水油濁防止条約)が採択されました。この条約の1969年改正は、全ての海域において油の排出を原則として禁止し、また、油の排出基準を設けました。
    船舶の運航やその事故による海洋の汚染を防止するため、「船舶からの汚染の防止のための国際条約(MARPOL73/78条約)」が、1973年の国際海事機関(IMO)で採択されました。1973年に「海水油濁防止条約」の排出基準をさらに厳しくし、また、一定のタンカーに分離バラストタンクの設置を義務付ける条約を採択しましたが、技術上の問題点等があり未発効のままであったところ、その間にもタンカーの事故による海域の汚染などが生じたことから、1978年のIMOのタンカーの安全と汚染防止に係る会議において、1973年の条約に統合する形で本条約が採択されました。油類、バラ積み有害液体物質、梱包されて輸送される有害物質、汚水、廃棄物及び排ガスの全てが規制対象となっており、構造設備等に関する基準を定めており、1983年に発効しました。
    また、1989年3月にアラスカで発生したエクソン・バルディーズ号油流失事故をきっかけとして、大規模な油汚染事件が発生したときの防災及び環境保全に関する各国の対応、国際協力等を定めた「1990年の油による汚染に係る準備、対応及び協力に関する国際条約」(通称「OPRC条約」)が1990年に採択され、1995年に発効しています。
  2. 海洋投棄による汚染の規制
    陸上発生の廃棄物等の投棄による海洋汚染を防止するため、「1972年の廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」(通称「ロンドン条約」)が1972年11月に採択され、1975年8月に発効しています。この条約は、海洋投棄される廃棄物中の有害物質を規制することなどを規定していましたが、その後の世界的な海洋環境保護の必要性への認識の高まりを受けて、1993年に附属書Ⅰ及びⅡが改正され、1996年1月から産業廃棄物の海洋投棄を原則禁止するなど大幅な規制の強化が図られました。

4 海洋プラスチックごみ問題

海洋ごみにも様々な種類がありますが、最も問題とされているのがプラスチックごみです。海洋ごみの半分以上を占めるプラスチックごみは、その素材の性質上滞留期間が長く、中には400年以上海の中を漂うものもあるといわれます。普段私たちが使っているプラスチック製のペットボトルや容器などは、ポイ捨てされたり、適切な処分がされないことにより海に流され、海洋プラスチックごみになります。海洋プラスチックによるごみ問題とは、そうしたプラスチックごみが海洋汚染や生態系に及ぼす影響を問題視したものです。
 世界の汚染状況

  1. 海洋プラスチックごみによる影響
    今日、海に年間少なくとも800万トンものプラスチックごみが流れこんでいることになります。海には既に1億5,000万トンものプラスチックごみがあり、2050年にはそれが海にいる魚と同等以上にまで増えると試算されています。プラスチック製の容器が分解されるまでに1000年以上かかるとの研究もあり、いったん海に入り込むと、環境にとても長い間影響を与えることになります。
    海に流れ込んだプラスチックごみは、海流に乗り海洋を漂い、また海底に沈みこみ、またあるものは海岸に打ち寄せられます。さらに5mm以下の細かいプラスチックの粒子であるマイクロプラスチックも世界の海に存在しています。これは、最初から歯磨き粉などに混ぜる小さなプラスチック粒子(マイクロビーズ)として使用するために製造されたものが下水道を通じて海に放出されたり、海岸に打ち寄せられたプラスチックごみが、紫外線や打ち寄せる波の影響を受けて長い年月をかけて分解されるなどして作られたものです。この海洋プラスチックごみが、さまざまな深刻な問題を起こしています。海で海洋ごみに絡まったりこれを誤って摂取したりすることで、絶滅危惧種を含む700種もの生物が傷つけられたり死んでいますが、このうちの92%が海洋プラスチックごみによるものです。
    例えばウミガメが、海に漂うプラスチック製のポリ袋を餌のクラゲと間違えて飲み込んでしまい、胃の中にそれがとどまってしまうため、満腹であると勘違いして、食事を摂らずに餓死してしまうこともあります。プラスチックを摂取している割合は、ウミガメで52%、海鳥で9割に達していると推測されています。
    これは、はっきりと分かっている問題だけで、地球の表面積の7割を占める海の汚染が及ぼす影響は未知数の部分も多いです。
  2. 日本沿岸で回収された漂着ごみのプラスチックの割合
    日本沿岸で回収された漂着ごみは年間約3万トンから5万トンにも及びますが、全国7地点での調査では、プラスチック類が漂着ごみの全体の個数の内、6割から9割を占めていました。また日本近海には、世界平均の27倍のマイクロプラスチックが漂っており、そのホットスポットとなっています。まだ人体や生態系への影響は解明されてはいませんが、日本の沿岸や近海各地で採集されたマイクロプラスチックにも有害物質が含まれており、それらが海の生態系に広く入り込み、食を通じて人体にも取り込まれている可能性があります。
  3. プラスチックの生産量の増大
    国連環境計画によると、プラスチック生産量は年間で約4億トンあり、2040年までに2倍に増える見込みとしています。海に流出する量は推定で年1,000万トンを超え、2040年に3倍に増える見通しということです。
    2016年1月に発表された世界経済フォーラムの報告書によると、世界のプラスチックの年間生産量は、過去50年間で20倍以上に拡大しており、さらに今後20年間で倍増すると予想されています。産業別の生産量では、容器、包装、袋などのパッケージが36%と最も多く、建設(16%)、繊維(14%)と続きます。特にペットボトルやレジ袋、食品トレーなど一度利用されただけで捨てられてしまう「使い捨て用」に使われることの多いパッケージ用のプラスチック生産が、プラスチックごみの量を増やすのに大きく影響しています。このパッケージ用プラスチックでリサイクルされている割合は14%しかありません。そして、プラスチックごみ全体でみると、約半分(47%)をパッケージ用が占めています。
  4. プラスチック問題への取り組み
    プラスチック問題に対しては、日本はもちろん、各国で取り組みが行われています。
    (1)日本での取り組み
    日本での主な取り組みは、次の2つです。
    (ア)プラスチック資源循環戦略
    「プラスチック資源循環戦略」は、第四次循環型社会形成推進基本計画において策定されました。廃プラスチックの有効利用率の低さや海洋汚染などを背景に、3R(リデュース・リユース・リサイクル)+Renewableを基本原則とし、プラスチック資源を循環させることや、プラスチックによる海洋汚染を解決するための戦略がまとめられています。
    (イ)海洋プラスチックごみ対策アクションプラン
    「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」は、海洋プラスチックごみ問題に対して、日本が取り組む対策をまとめたものです。令和元年6月に行われたG20は日本が議長国として開催されましたが、そのG20に先駆けて、海洋プラスチックごみ対策アクションプランは同年5月に策定されました。このプランでは、プラスチックごみの海への流出を抑えるために、国内の廃プラスチック処理・リサイクル施設の整備を支援するなどの対策を行うと宣言されています。
    (2)各国での取り組み
    欧米では、日本よりも早くプラスチック製品の使用禁止が行われています。プラスチック製ストローやレジ袋などは禁止され、プラスチックごみが出ないように取り組みが進んでいます。
    EUでは、「EUプラスチック戦略」のもと、リサイクルの推進やプラスチックごみの削減、循環経済実現に向けた投資・イノベーションの拡大などに取り組んでいます。この戦略で、2030年までにEU内のすべてのプラスチック包装材をリユース・リサイクルすることを目指しています。
    アメリカの主な取り組みは、プラスチックストロー・マドラーの使用禁止、再生プラスチック比率記載の義務付けなどです。また、マイクロプラスチックのひとつである「マイクロビーズ」を削減するため、これを含む洗顔料や歯磨き粉の製造・販売が禁止されています。
  5. 海洋プラスチックごみに関する国際的取組
    G20大阪サミット(2019年6月28日~29日)において、日本は2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにまで削減することを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を提案し、首脳間で共通のグローバルなビジョンとして共有されました。他国や国際機関等にもビジョンの共有を呼びかけ、2021年5月現在、87の国と地域が共有しています。
    また、G20海洋プラスチックごみ対策実施枠組がG20持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣僚会合で採択されました。
  6. 海洋プラスチックごみ削減の法的拘束力のある国際枠組み
    国連環境計画が主催する第5回国連環境総会の再開会合が2022年2月28日から3月2日にかけて、ケニア・ナイロビで開催され、海洋を始めとするプラスチック汚染対策に関する決議を含む計14本の決議と、会合テーマに沿った「持続可能な開発目標の達成に向けた自然のための行動強化」の閣僚宣言が採択されました。
    プラスチック汚染対策に関する決議のタイトルは、「プラスチック汚染を終わらせる~法的拘束力のある国際約束に向けて」です。世界中のプラスチック汚染を終わらせるため、プラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際約束策定のための政府間交渉委員会(INC)の設立が決定されました。INCでは、国際約束の義務的事項、対策、自主的アプローチなどについて検討し、2024年末までに作業を完了することが決議されました。
    決議によると、プラスチックごみの海洋流出防止に止まらず、設計から廃棄までプラスチック製品のライフサイクル全体を対象にした包括的な対策を想定、各国政府がプラスチックごみ対策の行動計画を策定し、定期的にその内容を更新することを柱としています。プラスチックによる海洋汚染を減らす対策が急務となっていましたが、海洋流出を規制する国際的な仕組みがありませんでした。今回の合意で、国連に加盟する193カ国・地域が協調してプラスチックによる環境汚染を減らす方向性が明確になりました。

おわりに

近年の海洋汚染で大きな問題となっている海洋プラスチックごみ問題の解決に向けて、海洋プラスチックごみの元となるプラスチック、特に「使い捨て用プラスチック」の利用自体を減らしていくことが必要です。日本は1人当たりのパッケージ用プラスチックごみの発生量が、アメリカに次いで世界で2番目に多い国です。
経済協力開発機構(OECD)が2022年2月に公表した報告書では、次のように述べています。

日本では、「プラスチック資源循環促進法」が2022年4月から施行されます。スプーンやマドラーといった使い捨てプラスチックを提供する事業者に削減義務を課し、受け取り意思の確認や有料化といった取り組みを促すことになります。この削減効果を見極め、より強い対策を導入するか検討することが求められます。
豊かな海を次の世代に残していくためにも、地球への脅威となりつつある海洋プラスチックごみ問題を解決しなければなりません。


藤田 八暉
久留米市環境審議会会長
久留米大学名誉教授

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