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第11回 オゾン層破壊の保護とフロン類排出削減の推進

更新日:202202281500


第11回 オゾン層破壊の保護とフロン類排出削減の推進について

フロンは、エアコン、冷蔵・冷凍庫の冷媒や、建物の断熱材、スプレーの噴射剤など、身の回りの様々な用途に使われていますが、オゾン層の破壊をもたらすことから、オゾン層の保護に世界全体で取り組むため、CFC(クロロフルオロカーボン)、HCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)などのオゾン層破壊をもたらすフロンなどを規制するためのモントリオール議定書が1987年に採択され、今年で35周年を迎えます。
CFCやHCFC以外にも、消火剤に使用されるハロンや検疫及び出荷前処理用として使われる臭化メチルなどがオゾン層破壊物質であり、様々な用途で使われています。
もう一つは地球温暖化への影響です。CFCやHCFCの代替フロンとして、HFCが広く使われるようになりましたが、HFCはオゾン層破壊物質ではない一方で、非常に高い温室効果があります。地球温暖化の防止のためにも、これらの物質の排出抑制・削減に積極的に取り組んでいかなくてはなりません。
我が国では、主要なオゾン層破壊物質の生産は、2019年末に全廃されていますが、過去に生産され、冷蔵庫等の機器の中に充填されたCFC等が相当量残されており、オゾン層保護を推進するためには、こうしたCFC等の回収・破壊を促進することが大きな課題となっています。また、その代替物質であるHFCを含めたフロン類の排出抑制対策は、地球温暖化対策の観点からも重要です。
1980年代以降に拡大した南極のオゾンホールの拡大は、依然として深刻な状況にあり、引き続き対策の強化が必要です。
今回は、地球環境問題の中で大きな課題であるオゾン層破壊の保護をテーマとして、オゾン層破壊の原因、オゾン層破壊による人体や動植物への影響に関するレビューとともに、オゾン層破壊に対する国際的オゾン層保護の取組、及び我が国のフロン類排出抑制対策の状況について概説します。

1 オゾン層破壊の原因

地球を取り巻くオゾン層は、太陽光に含まれる生物に有害な影響を与える紫外線を吸収し、地球上の生物を守っているのですが、この大切なオゾン層が近年人工の化学物質のフロンによって破壊されています。
オゾン層を破壊する物質には様々な種類があります。フロンの一種であるCFC(クロロフルオロカーボン)は、1928年に発明された人工の物質です。化学的にきわめて安定した性質で扱い易く、また、安価で人体への毒性が小さいなど多くの利点があるため、冷蔵庫やエアコンの冷媒、建材用断熱材の発泡剤、スプレーの噴射剤、半導体や液晶の洗浄液など、幅広い用途に用いられてきました。
しかし、CFCは、その安定した性質から、大気中に放出されると地上付近では分解しにくい性質をもっているため、大気の流れによって高度40キロメートル付近の成層圏まで運ばれると、強い太陽紫外線を受けて分解して塩素を発生し、この塩素が触媒として働き、オゾン層を破壊してしまいます。
どこの国から排出されたフロンであれ、オゾン層の破壊のプロセスへの影響は同じです。オゾン層が壊れると、その被害は直接、間接的に世界の全ての国々に及びます。国境を超えた地球全体に及ぶ大規模な環境問題がオゾン層破壊の第1の特徴です。第2の特徴は、フロンが化学的に安定しているために、長時間かけて成層圏にまで達し、微量にもかかわらずオゾン層を破壊することです。
オゾン層の破壊に伴い、地上に達する有害な紫外線の量が増加し、人体への被害(視覚障害、皮膚がんの発生率の増加等)及び自然生態系に対する悪影響(穀物の収穫の減少、プランクトンの減少による魚介類の減少等)がもたらされています。

2 紫外線量の増加による人体や動植物への影響

地上に到達する紫外線(UV-B)の量は、オゾン量の減少によって増加することが知られています。紫外線は、皮膚がんや白内障といった病気の発症、免疫機能の低下など人の健康に影響を与えるほか、陸地や水中の生態系に悪影響を及ぼします。オゾン層の破壊によって、地上へ到達する紫外線の量が増加すると、それらの悪影響が増加すると考えられています。
紫外線による健康への悪影響の例としては、次のようです。

3 国際的に注目されたオゾン層の破壊

オゾン層の破壊の問題が大きく注目を集め始めるきっかけとなったのは、1974年にアメリカの大気化学者フランク・シャーウッド・ローランド教授とマリオ・モリーナ博士がイギリスの科学誌『Nature』に発表した「フロンによりオゾン層が破壊される」という内容の研究論文でした。同論文において、スプレーや冷蔵庫の冷媒などに使われるフロンガスが成層圏で活性化した塩素原子がオゾンを分解しオゾン層を破壊すること、その結果として人や生態系への影響が生じる可能性を指摘し、フロンガス使用の規制の必要性をいち早く訴えたことです。
両者はドイツのパウル・クルッツェン氏とともに1995年にノーベル化学賞を受賞しています。

4 オゾン層の保護のためのウィーン条約の採択

1977年、国連環境計画(UNEP)は専門家の会合を設け、科学的な知見の整理や対策の立案に乗り出しました。この頃から、オゾン層保護対策に熱心な北欧諸国やアメリカは、相次いで独自の規制を率先して開始しましたが、オゾン層破壊の原因物質の国際的な規制はすぐには合意できませんでした。
国際的な取組の最初のステップとして、1985年3月に、オゾン層の保護を目的とする国際共同研究や各国の適宜の対策の実施のための基本的枠組みを設定する「オゾン層の保護に関するウィーン条約」が採択されました。

5 オゾンホールの実証

「オゾンホール」と呼ばれる現象を発見した最初は、1984年に忠鉢繁氏(気象庁気象研究所)が、日本の南極昭和基地における1982年のオゾン観測データから南極域上空においてオゾンの量が著しく減少しているとシンポジウムで発表したことです。
1985年6月にイギリスのジョゼフ・ファーマンらが同国の南極基地ハレーベイで観測したデータから南極上空のオゾンが春季に減少する現象が観測されたことを『Nature』に論文を発表しました。
南極域上空においてオゾンの量が極端に減少する「オゾンホール」という現象が観測されたことで、これはフロンによるオゾン層破壊説を実証する現象だとして国際世論に衝撃を与え、国際的な問題となりました。

6 モントリオール議定書の採択

この強い世論を背景に、1987年9月、「オゾン層の保護に関するウィーン条約」の下で、オゾン層を破壊するおそれのある物質を特定し、当該物質の生産、消費及び貿易を規制して人の健康及び環境を保護するため、具体的な規制措置を盛り込んだ「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」が条約制定のわずか2年後に採択されました。
これによって、5種類の特定フロン(CFC)について1998年までに生産量を半減すること、3種類の特定ハロンについて1992年以降に増加させないことが合意されました。本議定書において規定する主な規制措置は、(A)各オゾン層破壊物質の全廃スケジュールの設定、(B)非締約国との貿易の規制(規制物質の輸出入の禁止又は制限等)、(C)最新の科学、環境、技術及び経済に関する情報に基づく規制措置の評価及び再検討です。

7 議定書の下での規制措置の強化

その後、オゾンホールなどに関する国際共同研究の成果が次々と明らかにされ、オゾン層の減少がモデルで予測されていたよりも大きいおそれがあることなどが分かってきました。
既定のオゾン層保護対策が不十分であるおそれが強まってきたことから、国連環境計画(UNEP)は、早速、規制の見直しのための作業を開始し、1990年に開催されたモントリオール議定書第2回締約国会合で、5種類の特定フロン(CFC)、3種類の特定ハロンのほか、そのほか10種類のCFC、「1・1・1-トリクロロエタン」、4塩化炭素が規制物質に追加されました。
さらに、1992年の第4回締約国会合では、規制スケジュールがさらに前倒しされるとともに、代替フロンであるHCFC(ハイドロ・クロロ・フルオロ・カーボン)、臭化メチルが規制物質に追加され、1995年の第7回締約国会合では、HCFCの規制スケジュールの前倒しと、臭化メチルの規制スケジュールの策定が行われ、1997年の第9回締約国会合では、臭化メチルの規制スケジュールが前倒しされました。1999年の第11回締約国会合ではHCFCの生産量規制が導入され、さらに2007年の第19回締約国会合ではHCFCの規制のスケジュールが強化され、先進国では2020年に、途上国でも2030年に原則として全廃することとされました。
2016年のモントリオール議定書第28回締約国会合では、ハイドロ・フルオロ・カーボン(HFC)の生産及び消費量の段階的削減義務等を定める議定書の改正(キガリ改正)が採択され、先進国は率先して削減を始め2019年に最初のステップとして10%削減し、2036年までに85%削減すること、中国など多くの途上国は2024年に削減を始めて2045年に80%削減すること、需要が高いインドや中東諸国は特例を認め、より遅い2028年から始めて2047年に85%削減することとされました。この改正は、2019年1月1日に発効しています。HFCはオゾン層破壊物質ではないですが、その代替として開発・使用されており、かつ温室効果が高いことから、本改正議定書の対象とされたものです。
以上のように、7回にわたり規制措置の強化が採択されています。現在でも、締約国会議が毎年開催され、オゾン層の保護について話し合われています。

8 地球温暖化への影響

CFCとHCFCは、オゾン層破壊物質(ODS)であると同時に、強力な温室効果ガスでもあります。もし、エアコンや冷蔵庫からフロンを漏らしてしまうと、例えば、家庭用エアコン1台では約2,000キログラム、スーパーマーケットの冷蔵ショーケース1台では約40,000キログラムの二酸化炭素を放出したことと同じことになってしまいます。このため、地球温暖化の防止のためにも、これらの物質の排出抑制・削減に積極的に取り組んでいかなくてはなりません。
また、代替フロン等4ガス(HFC,PFC,SF6,NF3)は、オゾン層は破壊しないものの、地球温暖化への影響が強力であることから、1997年の「京都議定書」の対象物質(NF3については2013年に追加)となっており、排出削減の取組が行われています。
フロン類に代わり、オゾン層を破壊せず地球温暖化にも影響の小さい物質として、用途に応じて二酸化炭素(CO2)やアンモニア(NH3)などのフロン類を使わない(ノンフロン)物質の使用が広がり始めているほか、ノンフロン化が難しいとされてきた用途でも、地球温暖化への影響がより小さい物質が開発・使用されつつあります。

9 オゾン層破壊物質の排出の抑制

我が国では、「特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法律(以下「オゾン層保護法」という)」が1988年に制定され、同法等に基づき、モントリオール議定書に定められた規制対象物質の製造規制等の実施により、同議定書の規制スケジュールに基づき生産量及び消費量(=生産量+輸入量-輸出量)の段階的削減を行っています。
オゾン層保護法では、特定物質を使用する事業者に対し、その排出の抑制及び使用の合理化に努力することを求めており、特定物質の排出抑制・使用合理化指針において具体的措置を示しています。
我が国では、主要なオゾン層破壊物質の生産は、2019年末に全廃されていますが、過去に生産され、冷蔵庫等の機器の中に充填されたCFC等が相当量残されており、オゾン層保護を推進するためには、こうしたCFC等の回収・破壊を促進することが大きな課題となっています。また、CFC等は強力な温室効果ガスであり、その代替物質であるHFCも同様に強力な温室効果ガスとして京都議定書の削減対象物質となっていることから、HFCを含めたフロン類の排出抑制対策は、地球温暖化対策の観点からも重要です。
2001年に「特定製品に係るフロン類の回収及び破壊の実施の確保等に関する法律(フロン回収・破壊法)」が制定され、業務用冷凍空調機器の整備時・廃棄時のフロン類の回収、回収されたフロン類の破壊等が進められてきました。しかし、「冷媒HFCの急増」、「冷媒回収率の低迷」、「機器使用中の大規模漏えいの判明」等の問題について、「ノンフロン・低GWP製品の技術開発・商業化の進展」、「HFCの世界的な規制への動き」といったフロン類を取りまく状況の変化も踏まえて対応をすることが必要となってきました。そのため、これまでのフロン類の回収・破壊に加え、フロン類の製造から廃棄までのライフサイクル全体にわたる包括的な対策が取られるよう、2013年6月に法改正が行われ、名称も「フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律(以下「フロン排出抑制法」という)」と改められました(2015年4月1日施行)。
フロン排出抑制法には、冷媒フロン類に関して、業務用冷凍空調機器の使用時漏えい対策、機器の廃棄時にフロン類の回収行程を書面により管理する制度、都道府県知事に対する廃棄者等への指導等の権限の付与、機器整備時の回収義務等が規定されています。これらに基づき、都道府県の法施行強化、関係省庁・関係業界団体による周知など、フロン類の管理の適正化について、一層の徹底を図っています。
しかしながら、機器廃棄時の冷媒回収率は、10年以上3割程度に低迷しており、直近でも4割弱に止まっています。こうした状況を踏まえ、機器ユーザーの廃棄時のフロン類引渡義務違反に対して、直罰制を導入するなど、関係事業者の相互連携により機器ユーザーの義務違反によるフロン類の未回収を防止し、機器廃棄時にフロン類の回収作業が確実に行われる仕組みとなるように「フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律の一部を改正する法律」(令和元年法律第25号)が2020年4月に施行されました。
このため、家庭用の電気冷蔵庫・冷凍庫、電気洗濯機・衣類乾燥機及びルームエアコンについては家電リサイクル法に、業務用冷凍空調機器についてはフロン排出抑制法に、カーエアコンについては自動車リサイクル法に基づき、これらの機器の廃棄時に機器中に冷媒等として残存しているフロン類(CFC、HCFC、HFC)の回収が義務付けられています。回収されたフロン類は、破壊業者等により適正処理されることとなっています。

おわりに

環境省が、2021年12月に公表した「令和2年度オゾン層等の監視結果に関する年次報告書」では、オゾン層の将来予測について、数値モデル予測によると、オゾン層の回復時期は南北両半球で異なり、南半球の回復は北半球に比べてやや遅れると予想されている。オゾン全量が1960年(人為起源のオゾン層破壊物質による大規模なオゾン層破壊が起こる前)レベルまで回復する時期は、北半球の中・高緯度域で2030年頃、また南半球中緯度(南緯35度~南緯60度)では2055年頃と予測されている。一方、南極域の回復はほかの地域よりも遅く、1960年レベルに戻るのは21世紀末になると予測されている。また数値モデル予測からは、オゾン層の回復には、温室効果ガスの増加による成層圏の低温化並びに気候変化に伴う大気の循環の変化が影響を与えることが示唆されている、と記されています。
2021年11月に開催された第26回気候変動枠組条約締約国会合(COP26)の決定文書において、フロン対策にも関連する「二酸化炭素以外の温室効果ガスの排出を2030年までに削減するためのさらなる行動を求める」という文言が合意されました。先進国のフロン排出削減の推進はもとより、途上国に対して、既存機器の廃棄に伴って生じるHCFCやCFCの破壊の支援、これから対象機器が増えるHFCの再生利用の支援など、フロン分野における国際協力の推進が求められています。
また、温室効果ガスであるメタンの排出量を2030年までに削減することを、アメリカと欧州連合(EU)が主導し、100カ国以上が合意した「グローバル・メタン・プレッジ(誓約)」も発表されました。グローバル・メタン・プレッジ誓約に参加する国々は、2030年までに世界のメタン排出量を2020年比で、少なくとも30%削減するという共同目標を掲げ、特に高排出源に焦点を当てて、メタン排出量を定量化するために利用可能な最善のインベントリー手法を使用する方向に進むことを約束しています。この目標を実現することで、2050年までに温暖化を少なくとも0.2度下げることが可能になるとされています。
我が国では、HFC排出量の急増を背景に、フロン類の使用の合理化や管理の適正化を求めるとともに、フロン類の充?業の登録制及び再生業の許可制の導入等を措置するフロン排出抑制法改正を実施(平成25年改正、同27年施行)していますが、同法の附則において、「政府は、この法律の施行後五年を経過した場合において、新法の施行の状況等(中略)を勘案し、必要があると認めるときは、新法の規定について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする」とされていることを踏まえ、2021年11月「中央環境審議会フロン類等対策小委員会及び産業構造審議会フロン類等対策WGの合同会議」が開催され、点検・検討事項(平成25改正事項等)について審議が行われ、次回合同会議において報告書案を検討する予定となっています。同会議からの報告書を受けて、フロン排出抑制法の改正強化が行われることになります。


藤田 八暉
久留米市環境審議会会長
久留米大学名誉教授

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