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第10回 生物多様性の保全

更新日:202201281500


第10回 生物多様性の保全について

生物多様性の危機が世界的な問題となっています。世の中には数多くの生物がいます。「生物多様性」というのは、人間などの動物や植物から、菌類などの微生物まで、地球上に生息するすべての「生きもの」たちが支えあいバランスを保っている状態のことをいいます。地球上には、40億年の長い歴史の中で様々な環境に適応して進化した3,000万種ともいわれる多様な「生きもの」が生息しています。
生物多様性は、私たち人類の生存や存続の基盤となっていますが、開発や乱獲、外来種などの持ち込みによる生態系のかく乱などが要因となり、日本の野生動植物の約3割が絶滅の危機に瀕しています。「いのち」と「暮らし」を支える生物多様性を、私たちは自らの手で危機的な状況に陥らせているのです。
これから私たちは、すべてのかけがえのない命を守り、その恵みを受け続けていけるように行動していく必要があります。
久留米市では、生物多様性の保全及び持続可能な利用に関する施策を総合的かつ計画的に推進することにより、今ある豊かな生物多様性を保全し、その恵みを将来にわたり享受できるよう「生物多様性地域戦略-くるめ生きものプラン-」を2017年2月に策定しています。今般、その改定に向けて、「第2次久留米市生物多様性地域戦略-くるめ生きものプラン-(案)」を作成し、2022年1月4日から2月3日まで意見募集(パブリック・コメント)を実施しています。
今回はこの機会に、生物多様性の保全をテーマとし、まず生物多様性とは何かについて説明したうえ、生物多様性保全のための国内外での主要な取り組みとして、生物多様性条約、IPBES(イプべス)、生物多様性基本法及び生物多様性国家戦略について要点を解説します。これにより、生物多様性の保全について理解を深め、行動に繋げられるように出来ればと思います。

1 生物多様性とは何か

生物多様性(biodiversity)という用語は、biological(生物の)とdiversity(多様性)の2語を組み合わせた造語として1985年に生まれたと言われています。その後、地球環境への危機感、特に絶滅危惧種の増加への不安から、多くの政治家、科学者、活動家、市民に使われるようになりました。
1992年に締結された生物多様性条約では、次の3つのレベルで多様性があるとしています。

  1. 生態系の多様性:森林、里山、河川、湿地、干潟、サンゴ礁などいろいろなタイプの生態系がある。
  2. 種の多様性:動物、植物、細菌などの微生物など、いろいろな生きものが暮らしている。
  3. 遺伝子の多様性:同じ種でも異なる遺伝子を持つことにより、形や模様、生態などに多様な個性ができる。

1つ目の「生態系」ですが、例えば森をイメージしてみてください。森には木が生えており、季節によって、木は葉や花や実をつけます。葉は秋になると枯れて地面に落ち、生き物の餌になります。生き物は糞をして、その糞が微生物の餌になり、やがて木の栄養になります。つまり、木は自立しているのではなく、様々な生き物との関わりによって相互が依存し、共生しているのです。気候や地質などの自然環境によって異なるこの生き物のかかわり方を「生態系の多様性」と呼びます。
2つ目の「種」ですが、これは動植物から細菌などの微生物にいたるまで、いろいろな生き物がいることを「種の多様性」と呼びます。動物で125万種、植物で30万種といわれている生き物は、長い時間をかけて環境に対応するため進化していくうちに、突然変異などで種が分かれると考えられています。
3つ目の「遺伝子」ですが、例えば農作物などで遺伝子がまったく同じ植物を栽培していると、特定の病気の発生や気候の変化によって全滅してしまいます。それぞれが異なる遺伝子を持っていれば、個体によって耐性は変わってくるため、全滅を防ぐことができます。あらゆる環境変化に対して、生物は多様性を持つことによって生存率は高まり、絶滅の危機を避けられるのです。
日頃は当たり前だと思っている毎日の食事や医療、産業、文化に至るまで、自然の恵みがなければ成り立ちません。生物多様性のおかげによって、私たち人間の暮らしが支えられています。
また、生物多様性によって美しい自然環境が守られています。例えば山の木をすべて切ってしまえば、木によって生態系を守っていたほかの動植物も生きていくことができなくなります。また、山は地面に水をためこむ力が弱くなり、急激な大雨が降った時に土砂崩れになる可能性が出てきます。豊かな生活を送るうえで、生物多様性を考えることは重要なことなのです。
内閣府が2019年8月に行った令和元年度環境問題に関する世論調査によれば「生物多様性」という言葉の認知度は、51.8%にとどまっているのが現状ですが、生物多様性保全について一定の理解を示唆する結果も得られています。特に若い世代では生物多様性に対する認知度は高い傾向にあります。生物多様性の危機要因(気候変動による生物に適した生息・生育地の消失等)へは、9割を超える方が関心を寄せています。生物多様性保全のための取組には、8割を超える方が生物多様性の保全につながる活動(MY行動宣言の5つのアクションに関する活動)への意向を示すなど、一定の理解が広まってきています。
また、一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)が実施した生物多様性に関するアンケートでは、経営方針等に生物多様性の概念を取り入れている企業が2009年度には約4割であったのが2019年度には約8割に倍増しているほか、生物多様性に関する行動指針・ガイドライン等を自社独自で作成している企業が約6割、生物多様性に関する情報公開を行っている企業が約7割になるなど、いずれもこの10年間で倍増しており、経済界における生物多様性の主流化は大きく進展しています。

2 生物多様性条約とは

人類は、地球生態系の一員として他の生物と共存しており、生物を食糧・医薬品などに幅広く利用しています。その一方で、国際的に、1970年代頃から野生生物の種の絶滅やその原因となっている生物の生息環境の悪化及び生態系の破壊に対する懸念が深刻なものとなっていることから個別の野生生物種や特定地域の生態系を保護する複数の条約が採択されました。しかし、それだけでは不十分であると考えられるようになり、生物多様性を包括的に保全し、生物資源の持続可能な利用を行うための国際的な枠組みを設ける必要性が国連等において議論されるようになり、1992年5月に生物多様性条約が採択されました。我が国は1993年5月に同条約を締結し、1993年12月に生物多様性条約が発効しています。同条約には、先進国の資金により開発途上国の取組を支援する資金援助の仕組みと、先進国の技術を開発途上国に提供する技術協力の仕組みがあり、経済的・技術的な理由から生物多様性の保全と持続可能な利用のための取組が十分でない開発途上国に対する支援が行われることになっています。また、生物多様性に関する情報交換や調査研究を各国が協力して行うことになっています。
同条約の発効以降は、締約国会議(COP;Conference of the Parties)が、世界各地でおおむね2年に1回開催されています。2010年10月に愛知県で開催されたCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)では、2010年以降の世界目標となる新戦略計画として、各国に積極的な行動を促す「明確」で「わかりやすい」世界目標、戦略計画2011-2020(通称:愛知目標)を策定し、各締約国が現在まで取り組みを進めています。
生物多様性は人類の生存を支え、人類に様々な恵みをもたらすものです。生物に国境はなく、世界全体でこの問題に取り組むことが重要です。

3 IPBES(イプべス)とは

生物多様性に関する科学と政策のつながりを強化し、科学を政策に反映させる必要性から「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES;Intergovernmental science-policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services)」が発足しました。IPBESは、生物多様性と生態系サービスに関する動向を科学的に評価し、科学と政策のつながりを強化する政府間のプラットフォームとして、2012年4月に設立された政府間組織で、事務局はドイツのボンに置かれています。2021年3月現在、137カ国が参加しています。IPBESは、科学的評価、能力養成、知見生成、政策立案支援の4つの機能を柱としており、その成果は、生物多様性条約に基づく国際的な取組や、各国の政策に活用されています。気候変動分野で同様の活動を進めるIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の例から、生物多様性版のIPCCと呼ばれることもあります。

4 生物多様性基本法とは

1993年に制定された環境基本法では、「生態系の多様性の確保、野生生物の種の保存その他の生物の多様性の確保」を基本的施策の一つに位置づけられました(環境基本法第14条2号)。その後、生物の多様性の確保に特化した法律として、2008年5月に「生物多様性基本法」が議員立法により制定、公布(平成20年法律第58号)され、同年6月に施行されました。
生物多様性基本法の前文では、生物多様性が人類の生存基盤のみならず地域独自の文化の多様性をも支えており、国内外における生物多様性が危機的な状況にあること、我が国の経済社会が国際的に密接な相互依存関係の中で営まれていることなどを明示し、本基本法の必要性を説明しています。
生物多様性基本法の目的は、生物多様性の保全と持続可能な利用について、基本原則を定め、国、地方公共団体、事業者、国民・民間団体の責務を明らかにするとともに、生物多様性国家戦略の策定その他の基本的事項を定め、生物多様性の保全と持続可能な利用に関する施策を総合的・計画的に推進することにより、豊かな生物多様性を保全し、その恵みを将来にわたり享受できる自然と共生する社会の実現を図り、地球環境の保全に寄与することとしています(生物多様性基本法第1条)。
同基本法の主な内容は、次のようです。

  1. 基本原則として、我が国の生物多様性施策を進めるうえでの基本的な考え方が示されており、予防的・順応的取り組みを挙げているのが特徴です(生物多様性基本法第3条)。
  2. 目的の実現に向けた国、地方公共団体及び事業者、国民・民間団体の責務として、国と地方公共団体による基本原則に則った施策の策定及び実施、事業者・国民・民間団体による基本原則に則った活動への努力などが責務として示されています(生物多様性基本法第4~7条)。
  3. 生物多様性国家戦略の策定が義務付けられており(生物多様性基本法第11条)、都道府県及び市町村による生物多様性地域戦略の策定について規定されています(生物多様性基本法第13条)。
  4. 国が講ずべき13の基本的施策が示されています(生物多様性基本法第14~27条)。注目されるのは、例えば、事業計画の立案段階等での生物多様性に係る環境影響評価の推進の規定が入れられたことです(生物多様性基本法第25条)。

5 生物多様性国家戦略とは

生物多様性国家戦略とは、生物多様性条約及び生物多様性基本法に基づく、生物多様性の保全及び持続可能な利用に関する国の基本的な計画です。我が国は、1995年に最初の生物多様性国家戦略を策定し、これまでに4度の見直しが行われています。現行の生物多様性国家戦略は2012年に策定した「生物多様性国家戦略2012-2020」です。
環境省では、次期生物多様性国家戦略の策定に向けて、2020年1月から有識者により構成する「次期生物多様性国家戦略研究会」を開催し検討してきましたが、2021年7月に「次期生物多様性国家戦略研究会報告書PDFファイル(2341キロバイト)このリンクは別ウィンドウで開きます」を取りまとめ、公表しました。
同報告書では、目指すべき2050年の自然共生社会の姿と、2030年までに取り組むべき施策が整理されています。2030年までに取り組むべきポイントとして、(1)保護地域外の保全や絶滅危惧種以外の普通種の保全による国土全体の生態系の健全性の確保、(2)気候変動を含めた社会的課題への自然を活用した解決策の適用、(3)生物多様性損失の間接要因となる社会経済活動への対応としてビジネスやライフスタイル等の社会経済のあり方の変革、(4)次期生物多様性国家戦略の構造・目標・指標を大幅に見直して目標の達成状況の明確化と多様な主体の行動を促す、ことが示されています。
現行の「生物多様性国家戦略2012-2020」に代わる次期生物多様性国家戦略は、生物多様性条約COP15で採択予定の「ポスト2020生物多様性枠組」を踏まえた上で策定される予定です。

おわりに

私たちの暮らしは、食料や水の供給、気候の安定等、生物多様性から得られる恵み「生態系サービス」 によって支えられており、生態系サービスは人間の生存と良質な生活(福利)に欠かせません。生物多様性の損失及び生態系サービスの劣化を止めるためには、人間による土地・海の利用や生物の採取、気候変動、汚染や外来種の侵入等の直接要因とともに、人口、経済、制度やそれらの背後にある社会的な価値観・行動といった間接要因への対応が重要です。
2019年にIPBESが公表した「生物多様性と生態系サービスに関する地球規模評価報告書」では、生物多様性が人類史上これまでにない速度で減少しており、自然の寄与(生態系サービス)が世界的に劣化していること、それらの変化要因が過去50年で増大していることが指摘されました。また、2020年に生物多様性条約事務局がまとめた「地球規模生物多様性概況第5版(GBO5;Global Biodiversity Outlook 5)」においては、ほとんどの愛知目標についてかなりの進捗が見られたものの、20の個別目標で完全に達成できたものはないと評価しました。
愛知目標の最終段階において取りまとめられたこれらの2つの重要な資料で共通して示されたメッセージは、生物多様性の損失を低減し、回復させるためには、経済・社会・政治・科学技術における横断的な社会変革(Transformative Change)により生物多様性損失の根本的な要因(社会・経済活動による影響=間接要因)を低減させることが必要ということでした。
愛知目標及び生物多様性国家戦略の最終年である2020年は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行がもたらした人間の健康と福祉に対する脅威をきっかけに、人間の活動と地球環境の変化の関係性をこれまでにも増して意識する年となりました。
2021年6月のG7首脳会合において2030年までに生物多様性の損失を止めて反転させるという強い決意を確認した「2030年自然協約」が採択されるなど、生物多様性にも大きく関連する動きもありました。
生物多様性の新たな国際目標となるポスト2020生物多様性枠組に向けた国際的な議論においても、生物多様性の主流化は引き続き重要なテーマとなっています。
また、生物多様性への取組を通じて、様々な社会課題の解決に貢献することが求められており、SDGsの様々なゴールへの貢献のためにも生物多様性の取組を一層推進していくという視点が重要です。

藤田 八暉
久留米市環境審議会会長
久留米大学名誉教授

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